ヨーキー椛(もみじ)、ドッグダンスするよ!

顔も体も態度もでかいヨーキーの女の子、椛(もみじ)のドッグダンスやお出かけ、さりげない日常の出来事などの記録です。

椛とドッグダンス~ドッグダンスの功罪・その6、犬に漢方薬?~

前回まで、ストレスコントロールには、肝(かん)の不安定=肝気亢進(かんきこうしん)を改善する漢方薬である『抑肝散(よくかんさん)』が有効であるとお話しました。
今回は抑肝散の続きです。


中国では現在でも、抑肝散はほとんど小児に使用されています。
中国では、漢方治療の歴史が長く、伝統を重んじる傾向があります。漢方治療については、原理原則に即した、ある意味原理主義的な治療が行われます。
そのため、中国に於いては、小児以外への抑肝散の治療が行われにくい傾向にあるのです。
その点、我が国の漢方治療は自由度が高いものがあります。よく言えば臨機応変、悪く言えば少々いい加減な気風です。


そのためか我が国では、抑肝散を小児以外にもしばしば使っていました。
それを江戸時代後期の折衷派(諸家の医術の利点を取り込んだ医術)の大家、和田東郭(わだとうかく、1744-1803)が初めて成人症例への有効性を書に記しましたが、以来、成人、特に女性に数多く使われてきました。
また、前回もお話ししたように、抑肝散は、成人のみならず高齢者にも有効性が証明されてきました。


この様に応用範囲が広い抑肝散であれば、犬にも有効性があるのではないかと考えます。
特に、東洋医学的に見た場合、犬の精神構造は小児のそれに酷似していると推測できる点を考えると、試してみる価値はある気がします。


また、近年、抑肝散の新たな可能性として認知症などの精神・神経領域への幅広い応用が行われています。
2005年の岩崎らの研究で認知症の行動・心理状態(behavioral and psychological symptoms of dementia : BPSD)治療における抑肝散の有効性が報告されましたが、その後これらの分野に対する抑肝散の研究は活発に行われています。
認知症のケースでも、抑肝散の有効性は、患者の攻撃性を抑えたいときに最も発揮されるという研究結果が出ています。


その他、特に精神・神経症状を有していない場合(つまり健康に問題がない場合)でも抑肝散は便利に使えます。
例えば、我々が普通に日常生活をおくっていても『イラッとくる』事はないでしょうか?
そんな時、それに対して薬を飲むとしたらどうか考えてみてください。


精神安定剤は、効果は確実ですが、眠くなるなどの副作用が強く、効果が出るまで30分程度かかるなど即効性も微妙です。
極めて速い即効性が求められる場合は注射薬の鎮静剤が使用されますが、これは医師・看護師に注射してもらう必要があります。
その点、抑肝散であれば眠くなるなどの副作用はありませんし、効果発現まで人によっては1~2分程度と即効性があります。


その結果、腹が立ってお皿を投げて割りたくなった時に、先ず抑肝散を飲むと、すぐに爆発的な怒りが減少し、お皿を投げずに済みます。


抑肝散の攻撃性の抑制効果という意味で行くと、人間もそうですが、犬にとっても有効であることが予想されます。
犬は、小児同様の肝(かん)の不安定を持っていますが、それ以前に、犬という種としての特異性を持ち合わせています。
その一つが攻撃性です。


犬は、狩りをするときも、他の動物から群れを守る時などに於いても、本能としての攻撃性を持っています。
もちろん、その類の攻撃性は人間も持っていますが、本能的な攻撃性という点では、犬は遥かに大きな攻撃性を持っています。
しかし、犬は、他者を思いやる共感力や、攻撃性を抑える理性に優れるため、他者に攻撃の矛先を向ける事が無いのです。


しかし、攻撃性を理性で抑え込む事は、しばしば肝への負担となって現れます。
肝への負担という面で考慮する必要があるものとして、犬の場合は肝機能障害があります。
犬は人間に比べて肝機能が弱く、肝機能値の異常をきたしやすい、つまりストレスで肝機能を悪化させる度合いが強いという側面があるのです。
(というよりも、哺乳類の中で、人間が異様に肝機能が強いのですが。)
そういった意味でも、犬のストレスコントロールを行う事は、犬の健康寿命にとってもたいへん意義がある事なのです。


また、どんなに理性を働かせようとしても、時として暴力的手段に訴えてしまう事もあります。これは、人間でも犬でも同じです。
その様なケースでは、予防的に抑肝散を飲む事は良い事であると考えます。


特に犬の場合のストレスマネージメントについては、攻撃性の減少という面でも、肝臓保護の観点からも、抑肝散が有用であると考えます。


では、犬に抑肝散を飲ませる事は可能なのでしょうか?
今のところ、抑肝散の構成生薬が、犬に悪いという報告は無いようです。
結論から言うと、個人的な観点では、犬に抑肝散を飲ませる事は問題ないと考えます。
少なくとも、連日で長期に飲まなければ大丈夫と思います。
(獣医師でない身で、あまり無責任な事は言えないのですが。)


実は、私は愛犬に他の漢方薬を飲ませた経験があります。


以前、私は、ミニチュアシュナウザーの女の子、チェリーを飼っていました。
チェリーは、晩年、歯槽膿漏に悩まされていました。


歯槽膿漏は、歯科治療や抗生剤が発達した現代では死に至る病ではありません。
しかし、抗生剤の無かった時代、例えば18世紀のフランス・ルイ王朝の時代には、フランスの貴族階級の死因の一位を占めるなど、恐ろしい病気でした。


現代に於いても、抗生剤を使いにくい場合は、生命健康を脅かす大きなリスクになります。
それは、犬にとっても同様で、現に歯槽膿漏で多くのワンちゃんが寿命を縮めています。
そして、それを防ぐためには、抗生剤の投与が必要不可欠とされていました。


しかし、チェリーは、横隔膜ヘルニア、高度の心不全、肝機能障害、腎機能低下、てんかん発作など健康上の問題を数多く抱えており、抗生物質の頻繁な投与は、身体的に負担が大きいため困難な状況にありました。
抗生剤を数日内服するだけで、肝臓や腎臓の血液検査値が大きく悪化するのです。
さて、どうしたものかと悩んだ末に、漢方薬を試せないものかと思い至りました。


製薬会社のツムラに研究論文などの情報提供の協力を得たうえで、獣医さんに相談の上で、チェリーに漢方薬を飲ませる事にしたのです。


ツムラの製品にはなかったのですが、文献での有効性がある漢方薬が、マツモトキヨシで扱っていた『桂枝五物湯(けいしごもつとう)』でしたので、症状が悪化した時に、対症療法的に飲ませてみたのです。


これが驚くほど効きました。
抗生剤よりも切れ味よく、チェリーの歯槽膿漏に効いたのです。
この漢方のおかげで、本当に助かったのを覚えています。


ちなみに、桂枝五物湯は、サンドラックからも『イキスット』という名前で販売されています。
口臭、歯肉炎に効いて、息がすっとするという意味でのネーミングみたいです。上手い事考えるものだな、と思います。


大きな副作用は少ない抑肝散ですが、胃腸の弱い人や犬の場合は注意が必要です。抑肝散に含まれる生薬である当帰、川芎、釣藤鈎が胃にもたれやすい性質を持っているため、長期内服の場合、胃腸に負担がかかりやすくなります。
こいいったケースでは、抑肝散の派生薬である『抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)』に変更して内服すると良いと考えます。


次回は、この抑肝散加陳皮半夏に関するお話をします。


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