ヨーキー椛(もみじ)、ドッグダンスするよ!

顔も体も態度もでかいヨーキーの女の子、椛(もみじ)のドッグダンスやお出かけ、さりげない日常の出来事などの記録です。

ヨーキー椛(もみじ)の物語~27.弱者を思いやる力~

椛が2歳を過ぎた頃。
まだ、コロナで世界が一変する前の話です。


私と妻とで、いつも参加していたワイン会がありました。
自宅の近くの酒屋さんが月に一回程度主催していたワイン会です。
個人経営の酒屋さんでしたが、息子さんがお店を継いでから、ワインに力を入れていました。
流行に流される事無く、本当に上質のワインを扱い、本格的なワインセラーで完ぺきに管理する素晴らしいお店です。
本当にワインを愛する人たちが集う、通好みの名店でした。


そこで開催されていたワイン会ですが、市井の酒屋でのワイン会としては、けっこう本格的な会でした。


どれだけ本格的なワイン会かというと、すべてのワインが基本的にはブラインドテイスティングです。
ボトルが新聞紙にくるまれて、それを当てるというものです。
これじゃあ、全然わからないだろうと思っていると、これが意外と当てる人がいるのです。
我々夫婦は、あまり判らない側の人間だったので、ブラインドで当てる人に対しては、ただただ驚愕するばかりでしたが・・・。


ちなみに、何とかワインを当てようとする努力と執念は人それぞれで、面白いものがありました。
本格的なソムリエよろしく、嗅覚だけで当てようと額に汗しながら目をつぶってグラスを回し、ひたすら集中する人。
ちなみに本物のソムリエ資格を持った人も参加していましたが、本物以上にソムリエっぽい感じを醸し出す素人(といっても相当なワインマニアですが)は、冷静に見ていると面白いものがありました。


かと思えば、雑談にかこつけて、話術で何とか主催者からワインの情報を聞き出そうとする人。
ボトルの形状から産地を当てようと、新聞紙の上からさりげなく触ってボトルの形を確かめる人。
ボトルの形状把握のポイントは肩の部分の傾斜と底の部分のへこみです。
本人はさりげなく触っているつもりですが、
『はい、そこ!肩やお尻を触らない様に!』
と、皆から注意されていました。もちろん冗談ではありますが。


そんな素晴らしい酒屋さんでしたが、時代は移り変わります。
先ずは、一般家庭がお酒を買う場所が、酒屋からコンビニやスーパー、量販店に移行していきます。
次いで、ドラッグストアも参入します。


それでも、ワインを相談できるお店は貴重であるため、多くの熱狂的ファンがお店を支えていました。
しかし、ネット通販は薄利多売の”最安値商法”が幅を利かすようになって行きます。


根強いファンも多いお店でしたが、大規模資本の薄利多売商法の前では、なかなか採算をとっていくのが難しく、ついに閉店となったのでした。


酒屋を閉めるにあたって、ワイン会のメンバーから、このワイン会は継続したいという話が出たのですが、会場がないという話になりました。


そんな時、だったら我々の家で行っても良いのでは、という話をしたところ、勢いで我が家でワイン会を継続となってしまいました。
建売住宅なのに、そこで10人以上のワイン会を開くって、”アメリカ人か!”って、自分自身で突っ込みを入れたくなりました。


そして、我が家でワイン会の運びになったのですが、これを最も喜んだのが椛さんでした。


今までもホームパーティでお客さんが来ると、喜んで大騒ぎでした。
それが、今度は人数が全く違います。
椛、大興奮でした。


ワイン会の主催者は、酒屋の店主さんでしたが、参加者にNさんという”ワイン会の会長”さんがいらっしゃいました。
Nさんは、うちの妻と生年月日が全く同じ(誕生日だけでなく、生まれ年も同じ!)で、いつも夫婦で参加していました。


Nさん夫婦には、軽い障碍を持つ小学生の男の子、D君がいるのですが、彼もワイン会にゲストとして参加していました。
Nさん夫妻は、D君にいろいろな経験を積ませる意味も込めて、いろいろな所に連れて行っています。
その関係でワイン会にも顔を出して、皆に可愛がられていました。
その経験は、D君の世界を広げる事に大きく貢献していると思います。


椛はワイン会でお客さんが来ると、嬉しくて吠えながら走り回ります。
多くの人はそんな椛を、微笑ましく見てくれて、可愛がってくれるのですが、D君は少々違いました。
D君は、椛を可愛がりたいのですが、吠えているのを見るとパニックを起こしてしまいます。
それでも、D君は椛を可愛がりたい、出来ればナデナデしたい。
でも、怖い。どうしたら良いのだろう。
そんな感じでした。
Nさん夫妻も、D君に何とか犬などのペットに慣れさせたいという想いがあり、椛と触れ合わせたいと思っていました。


最初のうち、椛はD君に対しても歓迎の意味で吠えていました。
我々が”ワンしちゃだめだよ!”といっても、興奮してやめません。
D君は、パニックです。


しかし、ある時、椛が吠えなくなりました。
D君が来ても、じゃれつきに行く事無く、じっと伏せています。
椛の方からは、D君に目を合わせることなく、ただただ伏せています。


D君が、D君のママに促されて、そっと椛の頭を撫でます。
何度か頭を撫でられた後、椛がペロッとD君の手を嘗めます。
”ひゃー”っと言って、D君は慌てて手を引っ込めますが、その瞳からは犬への怖さが消えていました。


その後は、『椛ちゃん、可愛すぎる!』なんて言ってくれています。
まあ、まだ時々、椛が吠えるとどうして良いか判らなくなるみたいですが。


『椛は、D君に優しいんだね。』と妻と話していた時の事です。
そういえば、椛はD君にだけでなく、弱い立場の犬にも優しい事に気が付きました。


椛は、散歩中も、挨拶をしてくれないワンちゃんなどに対しては、厳しく接します。威嚇して吠えもします。
ドッグランでも勇敢です。どんな大型犬にもひるむことはありません。


しかし、弱い立場の犬には優しく接します。
身体を小さくして、脅威を与えない様にしています。
幼稚園=プレイボウでは当たり前のように行っていた事でしたが、それ以外の場所でも、椛は、必要に応じて優しくできている事に気が付きました。


そういえば、代官山のグリーンドッグという犬のショップに併設されているドッグランに行った時にもこんな事がありました。
ドッグランに、ダックスがいて、椛と追っかけっこをして遊びました。
けっこう激しくガウガウ遊んでいて、全く関係ない人まで動画で撮っていた位の激しさです。(その時、残念ながら我々はカメラを持っていなかったのですが。)


最初は互角にガウガウしていたのですが、次第にダックスは椛の勢いに押されて、ドッグランの中のベンチの上に逃げます。
”どうだ、ここまでは来れないだろう。”とばかり、ベンチの上から吠えるダックス。
”降りてこい、卑怯者。”とばかり、下から吠える椛。


ひとしきりガウガウを楽しんだ後、ダックスと飼い主は先に帰って行きました。
激しい追っかけっこでしたが、ダックスも飼い主さんも楽しんでくれたようで安心しました。
私が『椛、楽しかったか?』と声をかけてドッグランのベンチに腰を掛けた時です。
椛が、ポンっと助走なしでベンチに軽々と飛び乗ったのです。


『椛、お前、ベンチに上がれるじゃないか。さっきは何で・・・。』
そう言った時に気が付きました。
椛は、ベンチに登れないふりをしていたのです。
相手の犬に配慮して、ベンチに登れないふりをして、相手に安住の場所を提供したうえで遊んでいたのです。


『えらいぞ、椛。パパは見直したぞ。』
そういって、椛の頭を撫でたのですが、これって椛の才能かもしれないと考えていました。


弱いものを気遣い、いたわる。
椛は、弱者をいたわる力があり、それが椛の才能ではないかと思うようになったのです。


これを何かに活かせないものか。
そんな事を考え始めていました。



椛の物語、続きはこちら。


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